ボックスツールを使って頭部を作った。お次は目だ、こんなのボールツールだけで事足りる。口は、そうだなボックスをうっすく縦長にしよう、アンテナもボックスとコーンツールをあわせて、オーケイできあがり。簡単だね、良かったよあいつがこんな単純なデザインで。 そんな感じでモデラーソフトを使用して、次々にデザインを仕上げていく。あっという間に出来上がり、だ。さあて後は色・質感編集でつけるべき所に光沢をつけて、と。こんなもんか? 僕はノートパソコンの画面に表示されている完成図を見て頷いた。 流石だね、僕、上出来じゃないか? ――何て皮肉を自分自身で言いたくもなる。 「…何でこんなに簡単なデザインなんだよ、コーラルQ」 カレッジの中庭の木陰のベンチ、ノートパソコンを開いてモデリングしている僕は、こんな3歳児でもできるようなデザインをしている自分が情けなくなって長い溜息をついた。全く、この僕がこんな簡単すぎるものを作っているなんて信じられない。 大体本来ならロボット先進国の日本に留学でもしたかった所なんだが――科学館、ロボット博覧会、ホンダ、ワセダ、ソニー…日本に住んでたら行きたい放題だ――まあ、教育水準がぐんと上がっただけでもよしとするか、ロボット工学科だし。 それはともかく1年間を通して各自で製作するロボットの、他の生徒ならこれだけにも1学期は費やすようなデザインを、僕は20分で完成させてしまった!デザインのモデルがいるから当然なんだけど。それにしても、充分承知はしていたものの、いざモデリングしてみるとこうまでとは…”コレ”を教授や皆の前で発表するのは気が引ける。 いや、デザインはこれでもプログラミングや動作を完璧にすればいいだけだ、回路とプログラム、それがロボット製作時の中心作業。 しかし少々気落ちした僕は、プログラムを保存してモデラーを終了した。 「ハイ、グラブ、何してるんだ、授業は?」 ドナルドだ。その名の通り暗い茶の髪をしている、背の高い男。同じぐらいの弟がいるとかで、何かと僕に構ってくる一人だ。 「この時間はありません、次の授業は午後からです、ドナルド。何をやっているかというと、ご覧の通りノートパソコンを開いている所です」 「おいおい、ダネルでいいって言ってるだろう?」 「いえ、まあ――礼儀というものがありますから」 自分よりも下だと見ている人間を親しげに愛称で呼びたくはありません、と言ってやりたいが言わない。 ドナルドは肩をすくめて図々しくも僕の隣に腰を下ろした――ヘイ、誰がそこに座る事を許可したんだ? 「全くお固いね、Mr.ジーニアスは」 「それ、やめて貰えますか、前も言いましたよね」 「あーぁ、そうだったな、悪かった」 また言うなこいつは…ちっとも悪いと思ってないって顔だ。何だったら僕もあんたの名前についてセーラーを着たアヒルに関するジョークを言ってやろうか? いつもそれを人に言われる度、お調子者で通っているドナルドは笑って受け流しているが、実は物凄く嫌がっている事を僕は知っている。僕の趣味――読書、機械いじり、ネットサーフィン、そして人間観察。 「なあ、知ってるかい?ミツビシがまた新しいロボットを開発したって、何だっけな、凄くジャパニーズな名前…」 知ってますよ、貴方より2週間は前からね。 「ワカマル」 「そう、それだ!サムライみたいな名前だね」 「ウシワカマルからイメージしたそうですから」 「ウシワ…?何だいそれ?」 説明したくもなかったので黙っておいてやろうと思ったのだが、ドナルドの方も説明を求めていた訳ではなかったらしくすぐに話の続きを始めた。 「しっかし凄いよねえ、日本はさ、このワカマルなんか4ヶ国語話せるとか、自律行動するし自らコミュニケーションするとか、置いてかれてばっかだね、日本には」 「ロボット関係で技術が進歩していっているのは映画ばかりで、工学自体は日本に追いつけやしない。全く、ファック、ですね」 僕が鼻を鳴らすとドナルドは驚いた顔で片眉を上げた。 「…随分言葉遣いが過激だね」 「そうでもないです」 時間を無駄にしてられないのでパソコンでレポートを作成し始めた。こんなのより早く製作に入りたいんだけど。 「うわ!」 …わざと邪魔してるのか?突然大声を出したドナルドをちろりと見た。額に手を当てている。 「オ~~~ノォ~~…そうだった、フランシスと約束してたの忘れてたぜ…あーそうだった、今日金がいるんだった…」 ドナルドは頭を抱えてブツブツ言い出した。僕はふうと溜息をつく。 「いい事を教えてあげます、ドナルド。約束を守る最上の方法は決して約束をしない事である。フレンチ・エンペラー、ナポレオンの言葉です」 「とってもいい方法だね、だけど無茶だぜ、グラブ。約束は必要だ」 「でしょうね。でも僕も、約束なんてするんじゃなかったって思う時があるから、出来る限りこの教えを実践したい」 するんじゃなかった。約束したのに叶えられなかったってのは、つまり裏切りだ。 あれだけ自信たっぷりに、お前を王にしてやるなんて言っといて、とんだ嘘つき野郎だ、なっさけない。 「あ、そうだ」 憂鬱になり始めた僕とは反対に、何と早くも立ち直ったらしいドナルドは明るい声をあげた。 「ニュース観たかい、あの!謎の巨大建造物!」 「…ああ――」 キーボードを打つ手が止まった。 「俺の周りでもあの話で持ちきりさ!新聞やビデオのレンタルが激しいんだ」 「ウェブサイトでも結構画像が流れてますよね」 「君は何だと思う?ニュースや雑誌では建造物ってなってるが、俺達は極秘の軍事兵器じゃないかって言ってるんだ!」 「……そんなに生易しいものじゃないと思いますよ。兵器、って言うのは近い線いってると思いますけど」 「何だい、グラブ、訳知りって感じだね!」 訳知り。そうだろう。僕は――僕らは、あの”建造物”をこちらの世界へ持ってきた奴――或いは奴ら――を除けば、この世界で一番最初にあれの存在に気付いた者に違いないだろうから。 魔物の感じはするが、魔物ではありえないもの。 お前が言っていたのは、あれの事だったんだな? 「そうでもないんですけど。ま、ちょっと訳ありで――と言っても僕だってあれが何なのか知りませんよ」 コーラルQにさえ判らなかったんだから。 気を紛らわすようにタンタンとキーボードを叩いていく。 我が家に帰ってきてからニュースを観て、僕は危なく飲みかけのホットミルクをまいてしまう所だった。コーラルQの言っていた”おかしな物”っていうのは、絶対にこれの事だ。 僕だって1年近く魔物の戦いに関わって来た人間、そういう事は嫌でも解ってしまうようになっていた。 特別番組や雑誌でその筋の専門家やら学者やらによる色々な推測がされていたが、僕にしてみれば、ハッ、笑ってしまう! 建造物、って表現だけで既におかしいったらない。よく見てみろよ、あの鍵穴!ただの建造物で、あの優れたレーダーを持つコーラルQがあそこまで言う訳がないんだ。 「ちぇっ、何だよーグラブ!兵器が近い線とか何で言えるんだい?」 「断定はしませんが。でもメディアで言われているような建造物では絶対にないですね」 気をつけろ。嫌な予感がする。最後にお前はそう言ってたっけな、お前の言葉は全部覚えてるよ。 負けたのに自棄にならず、相手の言葉を聞き入れて、更に情報を与えてやる、ケンシン・ウエスギの敵に塩を送る精神だ、うん、素晴らしいよお前は。 でもさあ、ちょっと僕には不満があるんだよね。 「…グラブ?」 「はい?」 何で。 「いや、怒ってる、ひょっとして?」 何で最後に僕には何も言ってくれなかったんだよ。 ターンッといい音を響かせてエンターキーを押した。一時保存をしておこう。 「何がですか?」 「あー…その、やたらキーを打つのに力込めてるじゃないか?」 「そうでしたか?気がつきませんでした」 ずれてきた眼鏡をかけ直した。――怒ってるのか?僕は。だってコーラルQ、1年近く一緒にいた僕にはなんにもなしで、よりによってキヨマロ――ピヨマロめ!――にガッシュ、敵に最後の言葉かい?僕だってさ、お前が何か言ってきたら言いたい事だってあったんだよ、今思えば。 言い足りない事がいっぱいあったんだ。分解だってしたかったし、いずれは君に2号を造ってやりたかったさ。ああそれに、多分あのバオウ・ザケルガを乗り越えていれば、きっと君はブルク系の分身できる術なんかを覚えていたに違いない、君がずっと夢見ていた合体変形ロボになれてたんだぜ。 大体お前は賢いけれど、間抜けだし、バカだし、軽率だし、とんまだし、単純だし、すぐ壊れるし、僕がいなくて大丈夫なのか?ちゃんとやってけるのかい? 僕の声があんまり冷たかったのか、困った顔で頬をかいていたドナルドは、視線を泳がせながら別の話題を探しているようだった。 「あ、あれ進んでるかい、課題のやつ」 「デザインまでもう終わりましたよ。見ますか?」 僕はレポートをいったん中断して再びモデラーを立ち上げた。ファイルを呼び出す。画面に大きな目をした四角い物体が現れた。 「…あー…ユニークなデザインだね」 「言いたい事は解ります、ドナルド」 「ほんとにこれでいくの?」 「勿論」 ドナルドはおかしな顔で笑っていて、僕と画面上の物体を見比べた。 「あのさ、勿体無いな、君ともあろうものがこんな子どもの玩具みたいなロボッ」 ドナルドが口を噤んだのは僕が無言で睨みつけたからだろう。そして僕が怒っているのは、自分が莫迦にされたが為ではない。 「ドナルド、デザインについては同意見ですけどね、僕の前でこいつの事をバカにしないで下さいね、こう見えてもこいつは凄いんですよ、変形もするしミサイルだってビームだって撃てるし、レーダーも内蔵してるんです、強いんですとても」 ワンブレスで言い切り、また画面に顔を戻した。いい加減ドナルドにはどこかへ行って欲しかったので後は一切無視。 ――するつもりだったのに。 「…驚いたね。君でもそんなに熱くなる事があるんだな」 「熱い?」 つい反応してしまった。あーあ。 「そうさ、君はいつでも売店で売ってるソーダアイスみたいにクールな奴だ、そんな感情的な声と顔は初めて見たね」 僕にしてみれば大人だっていうのに何かというとすぐ大騒ぎするドナルド達の方が信じ難い。スラップスティックを観ている様な気分になる。僕の表情はどっちかというと東洋人に近い、つまり大体において無表情。 「このロボット、大きさは?」 「65cm」 「アシモの殆ど2分の1か。静歩行、動歩行?」 「動歩行です」 見かけは静歩行っぽいのだが、意外にもあいつは人間並みにスムーズに歩く事が出来た――まあ、魔物だからね。 「人工知能はどうするの?」 「感情表現までするつもりです。ワメーバやWE-3RⅣなんか目じゃないぐらい、勿論コミュニケーションだって」 「ヒュウ、随分本格的になりそうだね、楽しみだよ」 今は無理だけど絶対変形もできるようにしてやる。まずはロボルクバージョン、次はムロム、ディゴウ、ラ・ロボガルグ、ああでもガンジルド・ロブロンはちょっと無理かな、好きだったんだけどあのデザイン。 しかしあの無茶苦茶な変形過程はどうしよう?どう考えても質量保存が…Damn! 「ところでこいつ、もしかしてモデル…みたいなのっているの?」 「…ええ、まあ」 「そいつってさ、何ていうか、君の小さな時の友達だった、とか?」 ――あいつはお前の友達だったか? 「君の表情とか見てるとね、どうもね、楽しそうっていうか。結構いるんだよね、昔遊んだ玩具やゲームに感動して、ロボット工学に携ってる奴って。だから君のそいつも友達だったりって思ってね」 ああ、もう。 何でみんな、僕に構うんだ。僕の事なんか放っておいてくれよ、何でわざわざ話しかけてくる?僕は自分で考えるから、何も言わないでくれよ。 何であんたもキヨマロと同じ事を言うんだ? 「友達なんかじゃ、ありません」 ノートパソコンをパチリと閉じて、さっさと立ち上がった。どこか別の木陰でサンドイッチを食べよう、それから図書室でレポートの続きをしよう。 「こいつは僕の、世界でたったひとりのパートナーです」 ベルが鳴るのが聞こえた。 ドナルドは慌てて立ち上がり、僕の方に手を振った。 「テラスで一緒に食べないかい、アンナとかメグとかサルトリィ・レディがいるぜ、Mr.ジーニアス!」 結構です、と僕は答えた。 「セーラーの下も履く様にね、ドナルド、尻尾が見えてますよ」 彼の嫌がる顔も見たかったが、僕はそう言いながらもうドナルドに背を向けていた。次に言ったらこんなものじゃすまさない。 今はお昼だから暖かいけど、やっぱりまだまだ寒い。コートを取ってこないとな、図書室はヒーターが効いてるからいいけど。 あの明るいチョコレート色――何ていうんだろ?今度正式名称を調べなくては――の本を持つみたいに、僕はノートパソコンを左手で抱えた。眼鏡に手を当てる。ネジを直さないとな。 親愛なるとんまなロボット、元気にしてるかい?そっちはどんな感じ?僕の方はそれなりに楽しい日々だよ、比較的。 何度失敗したって、何年かかったって、必ず僕はお前を取り戻してやるぞ、お前そのものっていうロボットを造ってやるんだ。 ポケットに手を入れて、僕は街路樹の並ぶ道を歩き始めた。――うん、長い道のりになると思うけどね? もう一度僕の手の中に帰っておいでよ、コーラルQ。 お前の好きなもの全部集めて、最高の状態で待ってるからさ。 いつでも大歓迎だよ。 グラブはモデラーでこんなのを作ってました。 ![]() 横、下、上。 ![]() 嘘です私が作りました。 コンピュータグラフィックスの卒業課題が終わってなくて学校に行ってた時に課題ほったらかしでこんなん作ってました。おばかですね! またも妄想全開話でごめんなすって!あ、タイトルは響きだけを重視してるので深い意味はないス☆ 05.2..13 |